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『学業に熱心なのも良いが、たまには息抜きも必要だろう』
父はそう云うと突然、私をとある屋敷に連れ出した。




その屋敷の外観は上品でとても美しく、庭には色とりどりの花が咲き乱れている。
しかしドアを開け中に足を踏み入れると、先ほどの自然の香りとは逆に強烈な香の香りがした。
『父上、ここは…』
『女だけの館だ。…何をする場所か、解るだろう?』
『な…!?』
この屋敷は女性が…男女問わず、性の相手をする場所らしい。
話には聞いた事はあったが、まさか自分がその地に足を踏み入れる事になろうとは。
『わ、私は遠慮する…!』
慌てて帰ろうとしたが、いつのまにか扉は固く閉ざされていた。
『次期当主のお前がその年で女を知らんのも困る。世継を得る為の勉強と思いなさい』
『…っ』

…そう。私は今まで女性と性交渉を持った事がない。
交渉どころか触れた事も無いのだ。
今まで学業に夢中でそれが恥ずかしい事などと思った事はないが、
父にそう云われたその時は何故かとても罪悪感を感じてしまった。
『では、ワシは戻るが…頃合いを見計らって迎えをよこすからな』
『父上!!』
『ギーズ様。もうお諦めなさいな』
声がした方へ向くと、螺旋階段から気品ある初老の女性が静かに下りてきた。
『ヴァーンシュタイン様、ご機嫌麗しゅう』
『君も元気そうでなによりだよ。では、息子を宜しく頼む』
『えぇ、勿論ですわ』
女性が父に一礼をすると、固く閉じていた扉が開き父は帰って行った。

『貴方が、ここの主ですか?』
『はい。イリネーと申します』
『私は…その…』
『ヴァーンシュタイン家の次期当主様とあろう御方が、そのような意気では』
手を口元に添え、上品にくすくすと笑む。
『本当、お噂通り実直な御方なのですね』
『……っ』
『そんなギーズ様に、とっておきの娘を紹介致しましょう』
『え…』
『アンナ、おいで』
女主人が部屋のドアを開けると、一人の女性が姿を現した。
『初めまして、ギーズ様。アンナと申します』
顔はまだ幼いが、整った容姿に豊満な体。
長い銀色の髪に、褐色の肌…
私は今まで見た事のない美女に、失礼と思いつつも目が釘づけになってしまった。
『ギーズ様を部屋にお連れして。失礼のないように』
『はい』
アンナと云う女性が、ゆっくり私に近づいてくる。
『…っ』
私は一歩後退りをしたが、彼女はするりと私の腕に手を回しにっこりと微笑んだ。
『ご案内しますね』
『あ…!』
有無を云わさず、私はひっぱられる。
…腕にあたる柔らかい感触。
小さい頃に触れた事のある母のものに比べると、はるかに大きい…

『さぁ、ギーズ様』
煌びやかなドアを開け、部屋に押し込まれるとそのままベッドに押し倒された。
『君…!』
押し倒した私を跨いだ美女は、あっと云う間に一糸まとわぬ姿になった。
『女性に恥をかかせちゃいけませんわ』
間近で彼女の胸が揺れる。
私はそれを直視出来ず、目を瞑り顔を背けた。

『………………』
『……………………』
『…………………………』

重い沈黙がつづく。
『あ!…もしかして…』
『…え…?』
『ギーズ様は同性がご趣味、とか?』
『そ、そう云う訳ではッ!』
慌てて顔を上げ弁解すると、目の前にあった豊満な胸に顔を埋めてしまった。
『…ぐッ!』
『ギーズ様、ここはそう云う場なのよ』
『私の意思で来た訳ではない!』
『……なら、アタシがお気に召さないって事ね…』
そう云うと彼女は黙って俯いてしまった。
それを見て、私は再び慌てて弁解をする。
『そう云う訳では!…なく……』
『じゃあ、どうして?』
『…私は…』
『私は?』
『…け、経験が無いので…きっと君を満足させる事が…出来ない…』
『………………………』

再び、沈黙が流れた。
しかし、その沈黙を破ったのは
『うふ、ふふふふ、あははははは!』
…彼女の笑い声だった。
『う……』
私は自身の発した言葉の恥ずかしさに気づき、頭が真っ白になってしまった。
『ふふ…あ!違うの!貴方を笑った訳ではないのよ。だってアタシを満足させる、なんて。お客様は貴方なのにね』
『だから…私は…』
半ば諦め気味に力なく伝えると、彼女はふぅとため息をつき私の上から退いた。
『でもね、貴方のお父様から大金を頂戴してるの。何事もなく、貴方をお帰しする事は出来ないのよね』
アンナは困ったと云う顔をしながら腕を組み考えている。
『そ、それならば』
『なぁに?』
『私の…話相手になってくれないだろうか。…私には異性の知り合いが居ないのでね…』
『あら、アタシなんかで良いのかしら?貴方が声をかければ、女の子達は喜んで友達になってくれると…』
『私は君が良いのだ!』
思わず、彼女の言葉を遮ってしまった。
彼女は少々驚いた顔をしたが、その表情はすぐに優しい微笑みに変わる。
『ギーズ・マナド・ヴァーンシュタイン様のお話相手に選んで頂けて光栄ですわ』
丁寧な返しと優しく微笑む彼女に、私は何故か安堵を感じた。





『今日も行くのか』
『え、ええ…』
『お前もやっと勉学以外の事に興味を持ったのだな、良い事だ』
機嫌良くうんうんと頷く父を尻目に、私はアンナに会う為にイリネーの屋敷に通っていた。
…ただ、父が思っているような目的ではないのだが。

『アンナ、今日はこの本をもってきたよ』
私はここに来る度、彼女に本をプレゼントしていた。
『嬉しいわ。ギーズ様の持ってくる本は読み応えがあるもの』
彼女はとても利口で、私の持っている知識や本にとても興味を示してくれた。
『グラナド・エスパダ…私はいつか、その地に足を踏み入れてみたいのだ』

グラナド・エスパダ、新大陸での開拓。
今の私の目標でもある。
貯えた知識がどれほど通用するか解らないが…試してみたい。

『新大陸…ギーズ様がその地へ行ってしまったら、もう会えなくなるわね…』
アンナは寂しげにポツリと呟いたがハッとしたあと、すぐいつもの表情に戻った。
『何を云う、その時は…』
君も一緒に、と云う言葉を私は飲み込んだ。
彼女と私はこの場所でしか会えない。
そして彼女は、この場所から出ることが出来ないのだ。
『…ねぇギーズ様。そろそろ、そのお顔の眼帯の意味を教えて貰って良いかしら』
『え…!』
彼女が、私自身の事を聞いたのは初めてだ。
『…大丈夫よ。アタシは籠の中の鳥。誰にも口外しないし、出来ないわ。どうして貴方ほどの地位や名誉や美貌を持ってらっしゃる方が異性と接触しないのか、アタシは不思議で仕方ないの』
『………………』

そう。
気付かないふりをしていたが、異性が私に好意を抱いてくれている事を感じては居た。
異性の知り合いを作れなかったのではなく敢えて避けていたのだ。

『君には、見せても…』
静かに、眼帯を外す。
『君になら、この傷を見せても…』
独りの時にしか、この眼帯を外す事は無かった。
『…貴方が抱えている傷はこれだったのね…』
静かに、アンナは私を見つめていた。
『醜いだろう、とても』


母上、私のこの傷は…
父上、私のこの傷は……


彼女もこの傷をみて、私の醜さに嫌気がさした事だろう。
静かに目を閉じそう思っていると、不意に柔らかい感触が目蓋に触れた。
『アンナ…!』
驚いたことに、彼女は私の傷にキスをしたのだ。
こんな醜い傷に、こんな醜い私に…
『貴方のこの傷の痛みはアタシには解らないわ。でも、これだけは云えるわよ』
『アタシは貴方のその顔が好き』


…!!

全てを見せれば、去られてしまう事を恐れ
私はこの醜い傷を隠していた

いつの日か、父と母にこの傷の由来を聞いた事があった。
しかし母は大粒の涙を流し私に謝るばかり。
そして父は、困った顔をした。

嗚呼、この傷に触れてはいけないのか
見せてはいけないのか
それでは 封印しよう
この傷の意味も 過去も 真実も

聞いてはいけない
知ってはいけない
隠さなければいけない

いつしか、そう思うようにした。
男女問わず私に近寄る者は沢山居たがみな、私が無意識に遠ざけていたのだ。
見られるのが怖かった。
私自身、醜いと蔑んでいるこの傷を
知られて離れて行かれるのが、怖かった…

『ね、アタシにちゃんと見せて。貴方の素顔…』
彼女の言葉が
心の中の出血を止める
彼女の眼差しが
傷の痛みを和らげる


『…大丈夫よ…貴方は何も悪くないわ……』
アンナはもう一度私の傷にキスをし、私の頭をその胸に抱いてくれた。

『貴方は綺麗よ、とても』
『………っ』
目から涙があふれる。
こんな私を情けない男だと思ったことだろう。
しかし、私の涙はとまらなった。

『…大丈夫よ…』
優しく頭を撫でられながら、やわらかく、良い香りのする胸元に顔を埋める。



その夜、私は初めて女性を知った。







『マダムイリネー、アンナを私の元へ託して戴きたい』
私がそう云うと、マダムは一瞬驚いた顔をしたがすぐに表情を戻し、こう云った。
『そうですわねぇ…あの子はまだまだ稼いでくれる子ですので。まぁわたくしの云い値を戴けるのであらばお譲りしても宜しいですわよ』
『……………』
いつも上品なマダムイリネーとは思えない直球な返しに、私は違和感を感じた。
『あとは…そうね、わたくしに跪いて戴けるかしら?』
『跪く…?』
『こんな卑しい身分のわたくしに、高貴な身分のギーズ様が跪くのです。ほほほ、たかが娘一人の為にそんな事は出来ない、出来る訳ありませんわねぇ』
再び感じた違和感。マダムの意図は解らない。
だが、とても簡単なこと…
『……その程度の事で、宜しいのなら』
私はマダムイリネーの前に立ち
『アンナが私の元へ来る事をお許し願いたい』
静かに跪いた。


『申し訳ございません、ギーズ様!』

目を開けると、目の前に居たマダムが私に跪いていた。
肩を震わせ、断罪の言葉と嗚咽と共に。



 
『あの子は…知り合いの娘なのですが家が没落してしまい、一家離散してしまったのです。私がなんとかあの子を捜し出し、面倒を見ようとしましたが…あの子には全ての借金が背負わされていました。本当はこんな真似させたくありませんでしたが…わたくしだけでは支払えない、そんな金額でした…』
『…それで、このような…』
『今まで、あの子を大金で買おうとした富豪は居りましたが、皆あの子の美貌と肉体が目当てなのは目に見えておりました。だから、だから試していたのです。プライドの高い貴族様がわたくしに跪いてまで、あの子を欲して下さっているのかどうかを』
『マダム…』
『貴方様で良かった。貴方様なら、アンナを安心して託せます』
『私は彼女を籠から出してあげたかった。…ただそれだけなのです』
『有難うございます、有難う…有難う………ッ』
マダムは再びそのまま泣き崩れ、顔を上げようとはしなかった。



 

『驚いたわ。あのイリネーさんがアタシを手放すなんて』
『アンナ、君はもう自由の身、籠から出られたんだよ。君の行きたいところへ行けば良い…』
『貴方がアタシの借金を払ってくれて…買ってくれたのでしょう?』
『結果的にはそうかもしれないが…私は、君をあの籠から出してあげたかったのだ。
…それに…私には君を束縛する気はない』

嘘だ。
本当はずっと側に居てほしい。
しかし今それを伝えれば、彼女は一生自分の意思で過ごす事は出来なくなる。

『…ねぇ』
『…ん?』
『グラナド・エスパダの話、覚えてるかしら。アタシ、こう見ても学生時代はスカウトの勉強してたのよね。アタシが貴方に返せるとしたらアタシ自身よ。…こんな娼婦上がりがヴァーンシュタイン家の敷居を跨いじゃいけないのは解るけど…』
『そんな事はない!』
私は嬉しくて、勢い余ってアンナを強く抱き締めてしまった。
『ぁんもう…苦しいわ、ギーズ様』
『す、すまない!』
その言葉に、慌てて彼女を引き離す。
『女の子の扱いも教えてあげられるかしら。うふふ』
そう云うと彼女はクスっと笑い、私を抱きしめる。
『あとアンナ…私の事はギーズと呼んでくれないか』
『え、でも……解ったわ。これからも宜しくね、ギーズ』

そう云って微笑んだ彼女を、私はとても愛しいと思った。



この後、彼女は長く美しい銀髪をばっさりと切ってしまった。
彼女曰く『動きやすいから』と、それ以上の事は語らず。
私はその美しい横顔に、彼女の決意と決別の意志を感じた。

『どんな姿でも、君は綺麗だ』

私が持っていた傷のように
彼女にも深い深い傷があるだろう。
今度は私が彼女を癒すことが出来れば、と。























愛する君へ


永遠の愛を誓う
































尻がむず痒くなった方々、お疲れ様でした。(笑)
毎回書きますが、文法的に変なところとかは見なかった事に。

ギーズとアンナの出会い編でした。
ギーズに関してはあらかたまとまっていたのですが、
アンナに関しての設定がかたまったのは結構後の方だったりします。
この後、二人はやんちゃ時期のセラスと会う訳ですがまァその話もおいおいに…
本当は挿絵を入れようとモソモソ描いてましたが一向に終わらないので先に公開してしまいました。
でもやっと形に出来て嬉しい限り。(まァ後でこっそりちょこちょこ修正していると思いますが/笑)

SS有りのネタも溜まっているので、じょじょに消化していきたいと思います。

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