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『今日一日、俺の前に姿を見せようものなら命はないと思え。』

嗚呼、またこの日がきてしまったのか。
僕は静かに一礼し、デュラン様の部屋を後にする。
あまり近づきたくはないが、一緒に命を受けたフランソワ・ローズも同じく。





『あ~ん、年に一度のお休みねェ…今日こそあの服買っちゃうんだから☆…あら、せっかくお休み貰えたのに嬉しくなさそうね~エドちゃんってば』
『………………………』
浮かれる奴を一瞥し、早足で距離を取ろうとした…が、
予想外な強い力で腕をひっぱられ、僕は少しよろけてしまった。
『なっ!』
『…良い子だからデュラン様の命令には逆らっちゃダメよ~…でないと…』
腕を強く握られ、メイルの上から奴の黒く染まった長い爪がキリキリと嫌な音を立てる。
口調はいつも通りだが、その目は笑っていない。
この男は、軟弱かと思えば今のように突然鋭くもなる。
何処から来て、いつからデュラン様に仕えているのか、本当に謎な存在だ。
『この僕が、デュラン様の命に背くとでも?』
語尾を強くし、腕をふり払う。
『うふん、だってエドちゃんには前科があるって話じゃない?アタシはただ心配なだ・け☆』
『…っ!』
 

そう。
あれは忘れもしない。
僕は一度だけ、デュラン様の命に背いた事があった。
それまでの僕は子供だった所為もあり、一日が自分の為に使えて、自由になると云う事に喜びを感じていた。
しかしふと、『自分が存在しているのはデュラン様のおかげ。そして僕の仕事はデュラン様の護衛だ。なのにその僕が一日とてデュラン様から離れてしまっても良いのだろうか?』と、疑問に思ってしまった。
もし、これがデュラン様への『忠誠心』の試験だったとしたら。
そう考えると、子供だった僕は頭が真っ白になってしまい、姿を見せるなと云う命を受けながらもデュラン様の姿を捜し回った。


デュラン様デュラン様デュラン様!!


子供ながらにも、自分の立場は理解していた。
だからこそ言い様のない黒い不安が精神を支配していたのかもしれない。

デュラン様はいとも簡単に見つかった。
僕は肩で息をしながら、デュラン様に駆け寄る。
『デュラン様、僕は、僕は…!』
鈍い音が辺りに響く。
いきなり頬を殴られたのだ。
『ぅあ!』
突然容赦のない力で殴られたので小さな僕は吹っ飛び、倒れてしまった。
起き上がろうと地面に手をつくと、今度は腹に蹴りを食らう。
『ぐっ!』
頬を殴られた際に軽く脳震盪を起こしていた上の蹴りだったから、目の前がチカチカ光ったりグラリと波打ったりと何が何だか解らなかったけれど、それでも僕はデュラン様にすがった。しかし、デュラン様の怒りは治まるどころかより激しくなり、僕の手を払い除け再び力いっぱい僕を蹴りつける。

『俺は命令した筈だ、姿を見せるなと!』

『俺の命に背きやがって!』

『貴様は誰の下僕だ!』

デュラン様です!

『貴様は誰に拾われた!』

デュラン様です!

『貴様の主は誰だ!!』

デュラン様です!
デュラン様です!
デュラン様です!
デュラン様です!




僕は激しい痛みに耐えながら、必死で訴え続けた。
『…オイ』
『それ以上ヤっちまったら本ト死ぬぜ、そのガキ』
『ハァハァハァハァ…』
『死んだら元も子もねー。わかんだろ』
『うるさい!!』
『あーあーあばらイッちゃってんな、どーすんの、コレ?』
『…貴様がなんとかしろ!』
息も絶え絶えの中、デュラン様の足音が荒く遠退いてゆくのが聞こえた。
『やれやれ、アイツもガキだねー…オイ、生きてるかぃ?』
声の主が僕に触れる。
触れた箇所に形容しがたい痛みが走った。
『ッあ……ッ!!』
僕がとても苦悶の表情になったのか、男は静かに手を離す。
『…可哀相なヤツだよなァ、アイツもオメーも』
男はふっと溜息をつきながら続ける。
『運命の悪戯ってヤツ…誰が悪い訳でもない』
その言葉が聞こえたと同時に痛みが和らいでゆく。
その瞬間、意識が飛んでしまった。





目が覚めたら僕は自室のベッドに寝ていた。
あの痛みが嘘のようにない。
『…生きてる…』
あの声の主が僕を介抱したようだ。
しかし、あの声の主は一体誰だったんだろう…
聞いた事があるような、ないような声。
そして微かに、香水の香りがした。







粛正を受けた僕は今まで以上により忠実にデュラン様に仕えた。

僕はデュラン様の下僕。

デュラン様が僕の飼い主。

デュラン様の命令が全て。

デュラン様は僕の………








命を受け、自室に戻った僕は甲冑を脱ぎ、私服に着替えた。
普段あまり私服でいる事がないから着心地が悪く、とても落ち着かない。
特に行くところもないけれど、リボルドウェだとデュラン様にお会いしてしまうかもしれないからオーシュに飛ぶことにした。







賑わしい街をぼんやりと歩く。
デュラン様と居る時は周りを常に警戒している為、街全体をあまり見た事がなかった。
『眩しい…』
建物と建物の隙間から見えた太陽。
エドワード・ウェインとして来たオーシュ。
何だか凄く新鮮な気がした。

『………ッ』
『?』
誰かの、泣き声。
『…う…ひく…』
どうやら女の子みたいだ。
いつもなら気にも止めない出来事だろうけれど、僕は引き寄せられるように泣き声の元に走ってしまった。

ついた先に居たのは、ふわふわしたやわらかそうな金色の髪に白い肌。
…キャル・ミナ・ヴァーンシュタイン…
デュラン様と同じ、ウォーロックの女の子。

『…どうしたの?』
ビクッと細い肩を震わせ、こちらを見る。
驚いたような、怯えたようなそんな表情で。
『…あ…な、なんでもありませんわ。』
ぷいと横を向き、指で涙を拭っている。
『…使っていいよ』
『あら…』
ハンカチを差し出したら、遠慮ぎみながらも受け取ってくれた。
(女の子の手ってこんなに白くて細いんだ…)
女の子の手を間近で見たのは初めてな気がする。
『ありがとう…あの…』
『…?』
『貴方のお名前はなんとおっしゃるの…?』
ハッと気付いた。
僕は彼女を知っているけれど彼女は僕の正体を知らないんだ。
『……………』
急に黙ってしまったから不思議そうな顔で僕を見つめている。
『どうか…しましたの?』

今日の僕は、デュラン様の護衛じゃないんだ
エドワード・ウェインなんだ。


誰にも正体を明かしてはいけない。
誰にも。
誰にもだ。



頭が痛い…
でも今だけは
今だけは…
忘れても
良い…んだ…


『…僕の名前はエドワード・ウェインだよ。…君は?』
『わたくしはキャル・ミナ・ヴァーンシュタインと申しますわ』
ぱっと、愛らしい笑顔に変わる。
さっきまではあんなに悲しそうな顔をしていたのに…女の子って解らないな。
『あの…わたくしの顔に何かついてまして…?』
ジッと見つめてしまった所為か、キャルの頬が紅く染まっている。
『あ、うぅん、ごめん』
…なんでだろう。
僕はどうして謝ってしまったんだろう。
彼女の照れたような、困ったような表情を見ていたら思わず口にしてしまった。
『…目、少し腫れてるよ…どうして泣いてたの?』
僕はそう云った後に後悔した。
キャルの表情がみるみる沈んでしまったから。
『…殿方にお見せするお顔じゃありませんわ…恥ずかしい…』
頬に手をやり、キャルは僕に背を向けてしまった。
『…お兄様とのお約束が無くなってしまって、とても悲しくて…泣いてしまったんですの…』

‐お兄様‐と云うのはギーズ・マナド氏の事だろう。
ヴァーンシュタイン家の当主であり、彼女が恋い焦がれている男。
だけど、僕から見ていたらギーズ氏はキャルに恋愛感情を抱いていないように見えた。
ギーズ氏の目にはいつも傍に居る、スカウトのアンナ・ドーラ嬢しか見えていないことも。
キャルもそれを解っているみたいなのに、どうしてそんなにその男の事を想えるんだろう。
解らない。解らないな。
そして、もっと解らないのは
僕がどうしてこんな事を思っているのかと云う事だ。
マスクごしで見た彼女は笑っていたり怒っていたりとても感情豊かな女の子だと思った。
そして今も。
悲しんでいたかと思えば笑い、笑ったかと思えば悲しむ。
僕の目には、それがさっき見た太陽のようにとても眩しく見えるんだ。
『…そのお兄さんの代わりと云ってはなんだけど、良かったらこの街を案内してくれないかな。僕、この街には来たばかりでよく知らなくて』

思わず口に出てしまった。
嘘はついてない。…ついてないけれど。

『良いですわよ、このハンカチのお礼もしたいですもの』
愛らしく微笑んだ彼女に僕は微笑み返…したつもりだったが、顔が引きつった気がする。
…笑ったのって、いつ以来だろうか。









『ここがグラングマアーケードですわ。偉大なる開拓王のお名前をおつけになったそうですのよ』
『ここがケーキ屋さん。イザベラの作る苺ショートケーキは逸品ですわ』
ちょこちょこと走る彼女に連れられ、街を案内される。
知らない事ばかりで、僕にとっては新しい発見ばかりだった。
『…ケーキって甘いんだね』
『まぁ!ケーキを食べた事ありませんの?』
『うん、今日初めて食べた』
『お口に合いまして?』
『美味しいよ』
『それは良かったですわ』
キャルは安堵したかのように微笑んだ。
変わった感触。
美味しいと感じたのは事実だけれど、また食べたいとは思わない。
でもキャルと一緒なら、また食べても良いかな。
『あら…うふふ、ついてますわよ』
スッと、キャルが僕の顔に手を差し出す。
『…ッ!』
だけど僕は反射的に、その差し出された手を掴み上げてしまった。
『きゃっ』
『!』
今まで顔に向かってくる物と云えば僕を殴ろうとする時の拳や僕を殺そうとする武器しか無かった。
『あ…』
急いで握った手を離すと、キャルの細い手首は赤くなっていた。
色が白いから余計にその赤が痛々しい。
『…出すぎた真似をしましたわ…ごめんなさい…』
手首に手を添え下を向き、今にも泣きだしそうなキャル。
違うよ、嫌なんじゃないんだ。
『…』
喉まで出かかった言葉を、僕は必死で飲み込んだ。



『じゃあ、ここで。』
『楽しかったですわ。』
また、会えるかな
『…有難う。送れなくてごめん』
また、会いたいな
『いいんですのよ。気を付けてお帰りになって。また機会がありましたら…あ…!』
キャルが云い終わるのも待たずに、僕はキャルに微笑を返してその場を後にした。
機会なんて、もうないだろう。
エドワード・ウェインでいられるのは今日一日だけだから。

近くに居るのに、遠い存在…






あれから自室に戻った僕はいつもの甲冑を身にまといマスクをつける。
自室のドアを静かに開け庭に出て噴水の前でぼんやりと立っていると、前から見慣れた影が現われた。
『あ…』
前からさっき別れたキャルが歩いてくる。
『!』
しかし、キャルは僕に気付くと怯えたように後退りし、来た方向へ走り去ってしまった。
『…………』
そう、彼女は僕を恐れているのだ。
この格好ではさっきのようにキャルと話す事は無いだろう。
…永遠に。







キャルとオーシュで会ってから1日が経った。
ヴァーンシュタイン邸を軽く見回っていると、厨房の方から楽しそうな話し声が聞こえる。
気配を殺して中を覗くと、キャルと…カナイと云う、スカウトの少年が談笑していた。

『カナイの作るケーキはイザベラのケーキに負けておりませんわね』
『……キャルが褒めるなんて。…明日、雨かな』
『まぁ!わたくし、本心から申しましたのに!』
相変わらず表情豊かなキャル。
愛らしく頬をぷくっと膨らませ、プイと横を向く。
その瞬間、カナイが目を細めた。何かに気付いたようだ…
『……キャル』
『え?…あ…何でもありませ…』
キャルが手首を慌てて隠そうとするが彼はその手を掴み、見る。そして静かにカナイの手が光ると、キャルの手首についた赤い腫れが瞬く間に消えていった。
『あ、有難う…ですわ…』
『……別に』
今度はカナイがプイと後ろを向き、作業をし始める。
『…うふふ』
キャルがカナイの背中に向けて微笑みかける。
それを見ていた僕は、何だかグっと胸が苦しくなった。







僕には怯えた顔しか見せてくれないのに

僕だって君の傍に居たいのに

僕だって君に微笑みかけられたいのに…!










『…キャル』
『え…?』
厨房から出て、自室に戻ろうとするキャルを僕は呼び止めた。
振り返り僕に気付いた途端、また怯えた表情になり距離を置こうとするキャル。
『待って、僕だよ!!』
僕は、マスクを静かに外した。
『あ…』
キャルの表情が、驚きに変わる。
『ケーキ、美味しかったね』













デュラン様の命令に、また背いてしまった。

でも、初めて思ったんだ。

デュラン様とは違った想いで、護りたいと。















『エド…?』
















君は、僕が護るから…


































エドのプチ過去&キャルとの出会い編でした。
ちなみに、この一日だけの休日と云うのは
デュランの設定にも深く絡んできます。


うーん。小説と云うには文法や形式がアレなので
今後もまァニュアンスで読んであげて下さい。(笑)

やっと設定を一つ形に出来ました。
他キャラのもわんさかあるので、
それらも一つ一つ形にしていきたいと思います。

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